実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.17 無効及び取消の効果ー原状回復義務

今回のポイントは次の4点です。
・無効又は取消されるべき法律行為に基づきなされた給付は、703条に基づいて返還されるのか、別の規定に基づき返還されるのか。
・その法律行為が無償の場合も常に原状回復が必要か。
・無能力者や制限行為能力者が給付を受けていた場合はどうか。
・詐欺や強迫の被害者が給付を受けていた場合はどうか。

不当利得(民法703)条の特則としての給付利得に関する規定

行為が成立しても始めから効力を生じないとされるのが無効、一度は効力を発生したかのように見えても形成権の行使により遡及的に無効であったとみなされるのが取消です。

無効とされた行為に関し既に行われた給付の扱いについては、民法703条の不当利得の規律が一般規定として妥当するように見えます。しかし、この規定を字義通り適用することは、先行する法律行為に基づいて行われた給付(いわゆる給付利得)を巻き戻す際には必ずしも適切ではないと考えられていました。

そこで、今回、給付利得の原状回復に関する規定が改正民法121条の2として置かれることになりました。

原則(121条の2第1項)は原状回復

改正民法121条1項は、無効な行為に基づいて行われた給付については、原状回復の義務があることを原則にしています。この点で現存利益の回復を原則とする703条と異なります。

もっとも、この原則はいくつかの場面で修正されています。

無償行為による給付の特則(121条の2第2項)

まず、贈与などの無償行為による給付を受けたものが、給付当時

– 無効であること、または
– 取消権が発生していること

を知らなかったときは、その返還義務は現存利益に限られます。

意思無能力者・制限行為能力者の特則(121条の2第3項)

制限行為能力者であることに基づく取消がなされた場合、現行民法121条ただし書は現存利益の限度での返還を求めていました。この趣旨は新法でも妥当します。また、新法においては、意思無能力者の行為は無効であるという規定が新設されました(改正民法3条の2)。そこで、現行民法121条ただし書を削除し、これらの2つの効果を、いずれも現存利益に限って返還を求めるものとする規定が新設されました(改正民法121条の2第3項)。

詐欺や強迫によって取り消された場合

詐欺や強迫を原因として法律行為が取り消された場合も、給付利得があれば121条の2第1項が適用されるのが原則です。しかし、この場面でも、不法原因給付の規定の適用はあると考えられます(一問一答Q18)。