実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.2 個人根保証規制の拡大-賃借人の個人保証人の責任の制限

1 根保証とは

根保証は、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約です。根保証契約の典型として、次の4類型があります。

① 貸金等債務の根保証-銀行取引等から生じる不特定債務(主たる債務の範囲に金 銭の貸渡しあるいは手形割引による債務(貸金等債務)が含まれるもの)の保証
② 継続的な売買取引等から生じる不特定債務の保証
③ 不動産賃貸借から生じる賃借人の債務の保証
④ 被用者についての身元保証(狭義の身元保証契約)

2 平成16年改正による貸金等根保証規制

平成16年改正で設けられた貸金等根保証規制は、その対象を個人が保証する上記1①の貸金等根保証契約(改正前民法465条の2~5)に限定していました。

具体的には、根保証を「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」と、貸金等債務を「金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務」と定義した上で、(個人)貸金等根保証を「主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれる根保証契約で,個人を保証人とするもの」としてこれに対する4つの規制を設けました。

ⅰ 極度額要件・書面要件による規制(改正前民法465条の2第2項第3項)
ⅱ 元本確定期日による規制(改正前民法465条の3)
ⅲ 元本確定事由による規制(改正前民法465条の4)
ⅳ 貸金等根保証契約の求償権保証による潜脱の規制(改正前民法465条の5)

3 今回の改正

今回の改正では、従来の貸金等個人根保証に対する規制を上記2の通り維持したうえで、上記1②③④を含むあらゆる個人根保証契約に規制対象を拡大しました。ただし、規制方法は上記2に記載した方法と異なる部分もあります。まず、上記2ⅱの元本確定期日にかかる規律は全ての個人根保証には適用されません。

②③④に対する規制方法は、

ア 極度額要件・書面要件による規制(465条の2第2項第3項)

イ 元本確定事由による規制(465条の4)
〈確定事由〉上記2ⅲの場合と同じ事由として、 保証人が民事執行を受けたとき、破産したとき、死亡したときまたは主たる債務者が死亡したとき。
〈非確定事由〉これに対し、上記2ⅲの場合と異なり、 主たる債務者が民事執行を受けたとき、破産したときは、元本は確定しません。

ウ 法人根保証契約の個人求償権保証による潜脱の規制(465条の5)

があります。

従って、新法施行後に賃借人の個人保証人と契約する場合や更新時に改めて契約をし直す場合に、保証条項を記載した賃貸借契約書や保証契約書等に極度額の定めがない場合に個人保証は無効となります。また、主たる債務者である賃借人が民事執行を受けたり破産したりしても、 個人保証の元本は確定しません。

4 実務上の対応策

賃貸借契約において賃借人の債務を個人が連帯保証する個人根保証契約の条項の例として、次のような条項案が考えられます。

連帯保証人は、借主と連帯して、以下のとおり、極度額の範囲において、本件賃貸借契約から生じる一切の債務(以下「本件債務」)を負担するものとする。
対象となる債務 本件債務(賃料、延滞賃料に対する遅延損害金、原状回復義務違反等に基づく損害賠償金等従たる債務を含む一切の債務)
極度額 金○○万円(本件債務及び連帯保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額を含む)