実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.3 個人保証の規制と保証人への情報提供義務

今回のポイントは、以下の3点です。
・公証人の関与が必要となる個人保証の範囲とは?
・経営者の配偶者は経営者保証の対象となるのか?
・3つの情報提供義務の内容と違反の効果はなにか?

1 事業に係る債務についての個人保証(第三者保証)の規制(465条の6~9)

(1)対象その1

対象は、①事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする個人保証契約、②主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる個人根保証契約です(465条の6第1項、3項(法人保証を除外))。

それ以外の債務に係る保証や根保証の場合、例えば、事業のためでない貸金債務の個人保証や賃借人の債務を個人根保証する場合は、このような規制はありません。

(2)規制方法と違反の効果

①②の締結に先立ち、その1ヶ月以内に公正証書により保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、各個人保証契約は無効となります(同条第1項)。

公正証書を作成するには、保証人となろうとする者が規定事項である債務の内容や全債務を履行する意思等を口授するなどの法定の方式に従わなければなりません(同条第2項)。その方式に違反があれば、公正証書が無効となり、その結果、個人保証も無効となると解されます。口がきけない人や耳が聞こえない人の場合の方式の特則も定められています(465条の7)。

(3)対象その2

さらに、(1)①②の求償権に係る債務の保証・根保証するということで脱法を図ることを防止するために、上記①②の求償権に係る債務についての個人保証契約及び同根保証契約も同様の規制が及びます(465条の8)。

(4)経営者保証等の例外(465条の9)

(1)(3)に定める個人保証・個人根保証であっても、次の記載する取締役や理事等の経営者等が保証人となる場合には、(2)の規制は適用されません。経営者等は、経営内容を知って保証するものであり、情宜に流される可能性は少なく、逆に不動産等の担保の乏しい中小零細企業への融資を円滑に進めるために必要がある等の意見によるものです。

  1. 主たる債務者が法人その他の団体である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
  2. 主たる債務者が法人である場合のその総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者
  3. 主たる債務者が個人である場合の主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者の配偶者(主たる債務者が行う事業に現に従事している者に限る)

しかし、夫婦関係という経営とは本来無関係の人間関係に基づいて保証をする危険が高い主たる債務者の配偶者を経営者等に加えたことには強い批判があります。

2 保証人に対する情報提供義務

改正法では、対象、内容及び違反の効果について、異なる3種の情報提供義務を創設しています。

(1)保証契約締結時の情報提供義務(465条の10)

【対象及び内容】(465条の10第1項)

主たる債務者は、①事業のために負担する債務を主たる債務とする個人保証又は②主たる債務の範囲に事業のためにする債務が含まれる個人根保証を委託するときは、次の(ア)(イ)(ウ)の事項に関する情報を提供をしなければなりません。

  • (ア)財産及び収支の状況
  • (イ)主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
  • (ウ)主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及び内容

【違反の効果】保証人の取消権(465条の10第2項)

主たる債務者が(ア)(イ)(ウ)の説明をせず、又は事実と異なる説明をし、そのために保証人が誤認して、保証契約をした場合において、債権者が主たる債務者の説明不足又は虚偽説明を知り、又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取消すことができます。

逆に言えば、主たる債務者が保証人に対し説明不足や虚偽の説明をしても、債権者が善意無過失の場合には、保証人の取消しは認められません。

債権者としては、保証人が主たる債務者から上記の(ア)(イ)(ウ)事項について説明を受けたことを確認するためのチェックシートを作成して、保証人が必要な事項を記入して署名押印した書面を受け取る等の対応は有効といえるでしょう。

(2)受託保証人からの請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務(458条の2)

【対象】委託を受けた保証人からの請求

対象は、保証人が主たる債務者からを委託を受けた場合において、保証人から債権者に請求があった場合の情報提供義務です。保証人が法人の場合にも適用されます。

【内容】

債権者は、受託保証人から請求があったときは、保証人に対し、遅滞なく、債務(*)の履行状況(**)に関する情報を提供しなければなりません。

*に関する内容

  1. 主たる債務の元本
  2. 主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの

**に関する内容

  • 不履行の有無
  • 上記1及び2の残額及び弁済金が到来しているものの額

【違反の効果】

違反があった場合には、一般の債務不履行として損害賠償(415条)および保証契約の解除(541条)の対象となります。

(3)主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(458条の3)

【対象】

対象は、法人が保証人である場合を除く、個人保証全般です(同条第3項)。

【内容】

債権者は、主たる債務者が期限の利益を喪失したことを知った時から2ヶ月以内に、保証人に対し、その旨を通知しなければなりません(同条第1項)。

【違反の効果】

債権者が主たる債務者が期限の利益を喪失したことの通知をしなかったときは、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時からその旨の通知を現にするときまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生じていたものを除く。)にかかる保証債務の履行を請求できないことになります(同条第2項)。