実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.12 賃借人の原状回復義務ー通常損耗・経年変化の取扱い

今回のポイントは、次の2点です。
・通常損耗及び経年変化は賃借人の原状回復義務の範囲か。
・特約による排除はどこまで認められるか。

賃借人の原状回復義務

賃貸借契約が終了した際、賃借人は、目的物を原状に回復して賃貸人に返却する義務があります(原状回復義務)。

実務上、原状回復義務の範囲については、通常損耗及び経年変化は原状回復義務の範囲に入らないものと解されていました。

国交省や東京都のガイドライン(*1)、そして判例も基本的には同様の判断をしています(*2)。

改正法では、賃借人の原状回復義務について明文の規定が設けられました(621条)。ここでも、通常損耗及び経年変化は、原状回復義務の範囲から除外されています。

もっとも、上記判例は、通常損耗であっても賃借人の負担とする特約に関し、「賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」としており、特約により621条と異なる合意をすることは可能です。

しかし、いかなる特約でも許されるわけではなく、通常損耗を敷引特約によって賄う合意がなされた事案において、判例(*3)は、「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。」と判断しています。

(*1)国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(第3版)」
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-3-jyuutaku.htm

(*2)最判平成17年12月16日判例時報1921号61頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=62594

(*3)最判平成23年3月24日民集65巻2号903頁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=81180