実務に役立つ民法・債権法改正~変更点セレクト20 No.13 不動産の賃貸人の地位の移転及び敷金

今回のポイントは、次の3点です。
・不動産の賃貸人の地位の移転につき賃借人の承諾は必要か。
・不動産の所有権は移転したが、旧所有者に賃貸人の地位を留保した場合、新所有者、賃借人との法律関係はどのようなものになるのか。
・不動産の賃貸人の地位が移転した場合、敷金返還債務は新賃貸人に承継されるか。

不動産の賃貸人たる地位の移転及び敷金

1 不動産の賃貸人たる地位の移転

契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をしても、相手方がその譲渡を承諾しない限り、契約上の地位は第三者に移転しません(539条の2)。

しかし、不動産の賃貸借においては、所有者が誰であっても目的物を使用収益させる債務を履行することができますから、賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要せずに、譲受人に移転すると判例(*1)によって解されていました。改正法では、この旨を明文化しました(605条の2第1項)。

2 不動産の賃貸人たる地位の留保

改正法は、賃貸不動産の譲渡の際に、不動産の譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保すること及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸することを合意したときは、賃貸人たる地位を譲渡人に留保することも認めています(同条2項前段)。

もっとも、この場合、もともとの賃借人が転借人となり、譲受人(新賃貸人)と譲渡人(新賃借人)との間の賃貸借契約が終了した場合に不利益を被るので、譲受人と譲渡人との間の賃貸借契約が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、当然に譲受人に移転するものとしています(同条2項後段)。

3 新賃貸人が賃貸人たる地位を賃借人に対抗するための要件

新賃貸人が、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには、判例(*2)は、その不動産について所有権移転登記を具備しなければならないとしています。改正法では、この旨も明文化しました(同条3項)。

4 敷金返還債務の新賃貸人への承継

旧賃貸人から新賃貸人へ地位が移転した場合、あわせて処理しなければならないのが、敷金をどうするかという点です。

判例(*3)は、賃借人が旧賃貸人に交付していた敷金は、旧賃貸人の下で延滞賃料等の債務があれば、敷金からこれに当然に充当されて、残額のみが新賃貸人に承継されるとしていました。

しかし、実務では、賃貸不動産の譲渡に際して敷金から当然充当せず、別途の精算をすることが多いので、改正法では、敷金返還債務は新賃貸人に承継されるという点だけ明文化しました(同条4項)。承継される敷金返還債務の額については、判例の明文化はされておらず、解釈に委ねられている点に注意が必要です。

5 賃貸借の対抗要件を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合における賃貸人たる地位

賃貸借の対抗要件を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合における賃貸人たる地位についても、判例(*4)にしたがって、不動産の譲渡人と譲受人との合意により、賃借人の承諾を要せずに、賃貸人たる地位を移転することができる旨も明文化されました(605条の3)。

この場合にも、605条の2第3項及び4項の規定が準用されています。

(*1)大判大正10年5月30日民録20輯1013頁

(*2)最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁

(*3)最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁

(*4)最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁